レイ・カーツワイル著「THE SINGULARITY IS NEAR」(シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき)が書かれてから10余年が経ったのだが、人類は本当にシンギュラリティ(技術的特異点、または2045年問題)へ向かっているのだろうか。
そこで、「THE SINGULARITY IS NEAR」で言及されていた各技術分野について、現代の技術レベルを象徴するニュースを集めてみた。
また、今回は特に、『人工知能(AI)・機械学習分野』を対象にした。
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真の汎用人工知能(AGI)を目指す「強いAI」
現在の人工知能の世界では、特定分野に特化した「弱いAI」と呼ばれる技術が実用化されてきた一方で、分野を限定しない、人間の脳と同等の思考力を有する「強いAI」の完成が希求されている。
そんな中、「全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI:Whole Brain Architecture Initiative)」は、2025年ごろまでに人間と同等の人工知能を完成させるのだという。
人間の仕事を分野特化して支援する「弱いAI」
動物の脳の仕組みを取り入れた「ニューラルネットワーク」というアルゴリズムによって、分野特化した人工知能技術が大幅に進歩した。また、「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術による多階層学習が可能となったことで、「ニューラルネットワーク」の精度と実用性が後押しされた。その結果近年、人工知能技術が大いに注目されるに至った。
とはいえまだ、人工知能技術は特化された分野でしか活用されておらず、人間の脳の多様性を再現した、「汎用人工知能=強いAI」は完成していない。
しかし、「弱いAI」と呼ばれる分野特化型のAIについては、様々な用途での実用化が進んでいる。
囲碁の強さも人間を超えた「Google AlphaGo」
イギリスのディープマインド社(グーグルに買収された人工知能開発を行う企業)が開発した人工知能「AlphaGo」は、世界的な棋士であるイ・セドル九段を打ち負かしてしまった。(AlphaGoの戦果は1勝4敗)
こういった「先読みが重要な種類の」ゲームの研究を行うことで、人間の行動を先読みする技術を向上させている。
それに、コンピュータゲームの攻略を自律的、再帰的に行う「DQN(Deep Q-Network)」も興味深い。DQNはスペースインベーダーやブロック崩しゲームなどを自力で覚え、上達していく。
人類を未来へと乗せてゆく「自動運転技術」
グーグルは公道での自動運転試験を続けている。また、日本国内でも、ロボットタクシー株式会社が実証実験を行っている。
その一方、グーグルが開発中の自動運転車が公道での実験において、バスと接触するという事故が報じられた。また、それをきっかけに「自動運転における事故の責任は、ロボット開発者、自動車メーカー、運転席搭乗者のうち、誰にあるのか?」という問題が浮上した。
人工知能の土台を固める「機械学習プラットフォーム」
グーグルをはじめオープンソースコミュニティが、様々な機械学習の開発プラットフォームを提供している。
また、多くは無償利用できるこういったプラットフォームを利用することで、一般の開発者が先端的な人工知能システムを開発できるようになっている。
具体的には、「製造業の自動検品システム」「写真の自動タグ付けシステム」「音声の分析・分類システム」「ビッグデータの分析・分類システム」などを従来よりも簡単に開発できるようになった。
機械学習分野のエンジニアリングで大きな課題となるのが、「ニューラルネットワークの作成=学習済みデータの作成」である。
通常、実用に耐えられるニューラルネットワークを形成するためには、何万~何千万レベルのサンプルデータを必要とし、学習に必要な時間も数時間~数日を要することがある。
そこで昨今は、「学習済みのネットワークを共有、流通、販売する」という取り組みが始まってきている。
芸術領域の人工知能技術「クリエイティブAI」
産業や医療の分野だけではなく、芸術の分野でも人工知能の活用が進んでいる。スペインのマラガ大学が開発した「Iamus」は、全自動で作曲する人工知能システムだ。
また、オランダのマウリッツハイス美術館とレンブラントハイス美術館のチームが、デルフト工科大学、マイクロソフトと協力して、3Dスキャンとディープラーニング技術により、画家レンブラントの新作を創造してしまった。
ロボット同士の戦争が現実となるか「ロボット兵器」
米政府はIS幹部のジハーディ・ジョンを無人機プレデターで殺害したと発表した。一方で、天体物理学者のスティーブン・ホーキング博士らは、自律型兵器の研究開発の禁止を求めている。
専門的な仕事を肩代りする「ワトソン」
IBMが開発した質問回答に特化した人工知能「ワトソン」は、コンサルティング的な業務での利用について研究や検証が進んでいる。また、ロボットが人間の仕事を奪ってしまうのではないかという懸念も、各分野で指摘されている。
人間の話相手になるか「人格再現型プログラム」
マイクロソフトの「りんな」は女子高生の人格をもったAIとして人気を集めている。その一方で、「ソフィア」や「Tay」というAIは、反社会的な言動をして、社会の反感を買った。こういったニュースがあると、ロボットと人間の共生は可能なのか、考えさせられる。
人類の友人になれるのか「人型ロボット」
ソフトバンクが開発したPepper(ペッパー)は、注目を集めている人型ロボットだ。Pepperは擬似的な視覚や聴覚や触覚を備え、まるで人間の子どものように踊ったりしゃべったりする。
この分野の研究開発が進むと、愛玩用途、精神的ケア用途、サービス業用途でのロボット利用が加速してゆくだろう。
自律的に研究を行う「科学者AI」
オーストラリアの研究チームが開発した人工知能は、彼らの予想を超えて、ボース=アインシュタイン凝縮という方法を一時間で学習してしまった。
人間が思いつかないような実験方法や組み合わせを短時間で繰り返す、科学者的なAIが登場しているということだ。
人間と機械の融合は実現するのか「装着型ロボット」
サイバーダイン社とペジーコンピューティング社が提携して、ロボットスーツHAL(R)の機能向上を目指すのだという。
サイバニックシステムの開発が進むと、重作業や介護分野で働く人々を支援することができるようになる。
企業の経営を支える「日立製作所の経営判断AI」
日立製作所は、企業の買収や新規事業の取り組みなどについての高度な判断を行うための人工知能技術を、2019年までに実用化するのだという。
まとめ
シンギュラリティの理論が提唱されてからも、技術はますます進歩を遂げている。革新を続ける技術分野の中でも、今回は「人工知能(AI)・機械学習分野」について、近年のニュースをまとめてみた。
人工知能関連は技術革新の中核となる分野であるため、目が離せない。
それではまた。
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