イベント運営会社『DNプランニング』が運営する、チケット販売サイト『オールチケットオンライン(OCO)』は、約14万人の会員を抱えていた。
ある日、OCOはサイバーアタックを受け、約9万人の個人情報を流出させてしまった。
システム保守を行う『GRシステム』は、責任を問われ、対応に奔走することになった。
もし損害賠償請求をされたら、たちまち倒産するかも知れない。
苦情とサイバーアタックの嵐の中で、関係者たちは……
※本作はフィクションです
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vol. 27
仁科は事故対応チームの一員として、ミーティングに参加した。
ミーティングと言っても、営業部の一画に集合するだけの短いものだ。
参加者は仁科の他に、佐川、安原、加藤。由加里、緑川、小笠原、斎藤。さらに大島もいた。
由加里は言った。
「営業陣は、またシフトを組んで、客先で電話対応します。技術陣は、引き続きプログラム対応をお願いします」
佐川は、「わかりました」と応じた。
「それから、クレームのメール対応は、制作チームや総務などにも手分けをお願いしています」
メール対応から逃れられるためか、斎藤は嬉しそうだった。
仁科についても、現場に行けるのが嬉しかった。裏方でうじうじと現場の心配をするより、いっそ矢面に立った方が気が楽だった。
最後に大島が言った。
「一番大変だった初日は、なんとかしのいだな。……俺の方では引き続き、経営レベルの問題を対処していく。みんなはそれぞれ、自分の問題に集中してくれ」
「わかりました」
と、由加里は言った。
他の社員も返事をした。
社員たちの間に、にわかな余裕が垣間見えた。
そのはずなのに、仁科は違和感を覚えた。
妙に社員たちの姿が遠くに見えたのだ。
由加里も、大島も、佐川も、まるで霞の向こうにいるようだった。
ミーティングが終わったあと、クレーム対応のメンバーが会社を出ようとしていた。
はじめのチームは、由加里と緑川と小笠原だ。
そこから、人員を入れ替わりながら1日をしのぐわけだ。
仁科は別件の客先訪問を済ませたら駆けつける予定だった。
みな、自分の仕事をこなしながらの参戦になった。
「藤野さん」
と、仁科はオフィスを出ていく由加里に言った。
「気をつけてください」
由加里は意外そうだった。
「え? ありがと。継続のクレームとかもあるけど、落ち着いてきそうだから」
こうして由加里たちは出て行った。
仁科の知る限り、まだまだ多くの問題が残っていた。
まず大きな問題が、賠償の件だ。DNプランニングが金券配布を決めれば、多額の賠償をしなければならない。
大島は支払いの目処がついていないだろうし、浦谷社長を納得させる代替案もなさそうだ。
プログラムの修正も完全ではないようだし、クレームについても慎重さを要することに変わりはない。
仁科は自分の頬を叩き、大丈夫だ、とつぶやいた。