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kyamanekoです。IT、思想、哲学、心理学などの記事を書いています。

シンギュラリティ 限界突破を目指した最先端研究(NAIST-IS 書籍出版委員会 編)

シンギュラリティ」と聞くと、ついつい「非現実的な話」「誇張されたバズワード」などと思われるかも知れない。

そこにきて本書、「シンギュラリティ 限界突破を目指した最先端研究(NAIST-IS 書籍出版委員会 編)」は、地に足がついた、きわめて現実的な本だった。

一般の人に向けて、現代テクノロジーの最新状況と課題をまんべんなく伝えるとともに、53人の現役研究者が各自の専門分野について未来を語る、密度の濃い書籍だった。

5年後、10年後の社会が透かし見えるこの本を、僕はあらゆる学生や社会人におすすめしたい。

 

はじめに

本書について

本書「シンギュラリティ 限界突破を目指した最先端研究」は、技術書籍や理工学関連書籍を手がける近代科学社と、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)が共同で出版したものだ。

全体としては、現代の先端技術の限界点と、それを破るための取り組みを紹介するというテーマの書籍だった。

53人の研究者による最新技術の解説

現役のNAISTの研究者53人が、数ページずつ各人の研究ジャンルについて特集するという、異例の試みが実におもしろい。

全体的に粒ぞろいのネタが揃っている割に、抑えたタッチで粛々と技術について語っていく点は、いかにも理系らしいというか、商売っ気のない骨太な印象を受ける。

万人にすすめたい

先端の技術について扱っている割に、とてもわかりやすくまとまっているため、中高生にも理解できそうな間口の広さがある。

また、実用化のイメージができる技術が数多く紹介されているため、将来の社会を想像する、青写真的な読み方もできる。

そういう意味では、経営者や投資家の方が読んでも大いに有意義な体験ができるだろう。

章立ての紹介

本書は以下のような章立てになっている。それぞれのブロックの中にさらに5つから7つの記事が収まっているという構成だ。

Part 1 計算機における限界点

  • 1 クラウド社会の限界突破
  • 2 ネットワークとシステム構築の限界突破
  • 3 計算機構の限界突破

Part 2 メディア科学における限界点

  • 4 センシングの限界突破
  • 5 知能の限界突破
  • 6 リアリティの限界突破

Part 3 システム科学における限界点

  • 7 数理・制御の限界突破
  • 8 生活支援技術の限界突破
  • 9 ライフサイエンスの限界突破

気になった記事の紹介

ダイナミックセンシングによるナビゲーション技術

都市全体の交通状況を最適化する技術について触れられていた。この技術を使うと、信号や混雑状況を管理し、渋滞のない都市を作ることができるのだという。その他、電気自動車(EV)をシェアリングし、無駄のない運用を行うためのシステムが紹介されていた。

知の集約拠点としての次世代電子図書館

「電子図書館」という概念は以前からあるものの、著作権や技術的な問題により大規模な電子図書館が実現しづらいという現状がある。

そこで、NAISTでは電子図書館のシステムをつくり、新しい技術の実用化に向けた研究を進めているのだという。研究対象は、「文書の検索」「メモや付箋のパーソナライズ」「マルチメディア情報の統合」「マルチデバイス対応」などがある。

情報大湧出時代に求められる新しい情報通信基盤

従来はクラウド集約型ネットワーク(データセンターのサーバを中心としたネットワーク)を利用していたが、いずれインターネットのトラフィック増問題が深刻になるようだ。

そこでトラフィック増問題を解決するために、IoTを利用した水平分散処理を研究しているのだという。水平分散処理が実用化すると、インターネットサーバの負担が軽減され、小規模なローカルネットワークが活用されるようになる。

熟練農家の暗黙知抽出・継承

熟練農家の高度な知識などをコンピュータ学習し、IT農業へと役立てる研究について紹介されていた。

学習に当たっては、群知能アプローチを利用することで、繊細で複雑な専門スキルを継承することができるのだという。

現実世界と電脳世界の融合:拡張現実感

「人間は画面の中ではなく、現実世界の中で生活すべき」という思想に基づいた、拡張現実の研究が紹介されていた。拡張現実の技術を追求するとともに、いかに日常生活を豊かにするための生活スタイルをデザインするかという視点で、様々な検証がなされている。

未来を変えるロボット学習

人の知性や行動を学ぶ、ロボット開発の体験などについて紹介されていた。

合わせて、ロボットが高度化したのちに訪れる社会の変容について、「ベーシックインカム」や「労働不要化」や「食料の配布」などに触れられていた。ロボットが人間の労働を負担する時代はやってくるが、人間の幸福を奪うものではないという。

遺伝子の物語を読み解く

遺伝子技術やナノテクノロジーを利用して、様々な問題を解決するための研究について紹介されていた。ライフサイエンスを追究することで、「エネルギー問題を解決する微生物の精製」「家庭レベルでの遺伝子デザインでサプリメントを合成」「DNA情報の集積検索システム」などが実現するのだという。また、人間が精製した微生物自体の生態系を倫理的にどう捉えるか、という話題も興味深かった。

まとめ

今回は、「シンギュラリティ 限界突破を目指した最先端研究」を紹介させてもらった。

NAISTに関係する研究者たちは、シンギュラリティを前向きに見据えて、人間の未来のための研究をしていることがとてもよく伝わってきた。

社会では人工知能やロボットに対する不安などもささやかれているのだが、一方で、将来には様々な問題が暗く横たわっていることも事実だ。

世界規模での人口増加問題」「日本国内の労働力低下問題」「環境問題」「エネルギー問題」「食糧問題

数え上げれば切りがない。

そんな問題だらけの未来をよりよくするためにも、人類が科学技術を追求し続けるのは当然のことだとも感じる。

僕らはもはや、逃げられない進化の過程にいる。その事実にどう向き合うかは、個人次第ではあるが。

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