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kyamanekoです。IT、思想、哲学、心理学などの記事を書いています。

個人情報漏洩させたらこうなった - vol. 50

実録! 個人情報漏洩させたらこうなった

イベント運営会社『DNプランニング』が運営する、チケット販売サイト『オールチケットオンライン(OCO)』は、約14万人の会員を抱えていた。
ある日、OCOはサイバーアタックを受け、約9万人の個人情報を流出させてしまった。
システム保守を行う『GRシステム』は、責任を問われ、対応に奔走することになった。
もし損害賠償請求をされたら、たちまち倒産するかも知れない。
苦情とサイバーアタックの嵐の中で、関係者たちは……

※本作はフィクションです

 

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vol. 50

 事故からの2日後の、2月14日のことだ。
 矢口は出勤のために家を出た。
 少し曇っていたが、傘は置いていった。

 矢口は東中野にある、築12年のアパートに住んでいた。
 近隣住民は若者が多く、ミュージシャンや芸人を目指すような、夢を持っている者も多かった。
 一方で、夢のない者も多くいた。
 矢口は後者の代表格だったわけだが。

 カビの生えたシミだらけの階段を降りて路上に出ると、黒いセダンが停まっていた。
 車種はわからなかった。
 矢口からしたら、黒いセダンはすべて高級車で、ヤクザか社長の乗り物だった。
 横を通り過ぎようとしたとき、運転席側のドアが開いた。
 すると、青い短髪の男――虻沼が出てきた。革のジャンパーに、ジーンズを穿いていた。
 虻沼はドアを後ろ手に閉めて、近づいてきた。
「すみません。矢口さんですね」
 矢口はびくりと立ち止まった。
「……はい。どちらさまでしょうか」
「あの、ちょっと、お話を」
「あ、これから仕事で、急いでますので……」
 すると、虻沼は矢口の前に回り込んできた。
「大丈夫です。ちょっとお話させてください」
「いや、なに言ってるんですか。どいてくださいよ」
「うん、とにかく、車に乗ってもらえますか」
「なんなんですか、あなた」
 そこで虻沼は、顔を近づけて凄んできた。
「うるせえ。ガタガタ言ってんじゃねえぞコラ。車乗れや」
 矢口は身震いした。
「ど、どういうことですか……。あなたみたいな人に、恨みを買うようなことは……」
「いいから、車乗れっての」
 そう言って、虻沼は肩を掴んできた。
 矢口はされるがまま、車の助手席に乗せられた。

 車内にはタバコの臭いが充満していた。
「シートベルトしてね。ポリはイヤだからよ」
 虻沼はそう言って、車を出した。
「あの、どこへ連れていかれるんですか?」
「おまえの会社」
「借金かなにか、取り立てにきたんですか? それだったら」
「違うよ。全然。ただな、1つ言っておくけどよ」
「は、はい」
「社長の言う通りにしろ。それだけだ」
 そこで、矢口はすべてを察した。
 この若者が何者かはわからないが、浦谷の息がかかっている男なのだろう。
 言うことを聞かない場合は、きっと彼らの流儀で、素敵なお礼をしてくれる、ということなのだ。
 虻沼は黙ったまま、タバコを吸いはじめた。拳は傷痕だらけで、ごつごつしていた。
 そのうち、GRシステムから少し離れた通りまでやってきて、車が停まった。
 虻沼は言った。「到着」
 矢口は黙って車を降りた。
 いずれにしても、矢口の考えは変わらなかった。
 脅しなどなくても、札束を取るつもりだった。

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