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kyamanekoです。IT、思想、哲学、心理学などの記事を書いています。

個人情報漏洩させたらこうなった - vol. 26

実録! 個人情報漏洩させたらこうなった

イベント運営会社『DNプランニング』が運営する、チケット販売サイト『オールチケットオンライン(OCO)』は、約14万人の会員を抱えていた。
ある日、OCOはサイバーアタックを受け、約9万人の個人情報を流出させてしまった。
システム保守を行う『GRシステム』は、責任を問われ、対応に奔走することになった。
もし損害賠償請求をされたら、たちまち倒産するかも知れない。
苦情とサイバーアタックの嵐の中で、関係者たちは……

※本作はフィクションです

 

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vol. 26

 2月14日、朝9時前のことだ。
 佐川は会社に向かって、人混みの中を歩いていた。
 会社に近づくと、駅から離れたこともあり、やや人通りが少なくなった。
 そのとき、やけに目立つ黒いセダンが路地に止まっていた。
 佐川は路地を横切ろうとした。
 そのとき車のドアが閉まる音がし、エンジン音が響いた。
 何気なく路地の方を見た佐川は、そこに矢口の姿を発見した。
 重役出勤よろしく、専属の運転手に送られてきたのだろうか。それにしても、会社にはまだ距離があった。
 はたまた女社長の恋人でもできたのだろうか。よりによって矢口に。
 佐川は気づかれないように先を急いだ。

 

 会社についた佐川は、情報漏洩事故が夢ではなかったことを痛感した。
 由加里たち営業チームは、DNプランニングでクレーム対応をするシフトを打ち合わせしていた。
 加藤と安原はすでに出社しており、前日の続きのセキュリティ対策をしていた。
 そのうち、矢口が出社してきた。
 矢口は無言でオフィスに入ると、呪文のように朝の挨拶を唱え、佐川の隣にある自席に着いた。
 矢口はなにも喋らなかった。
『あの車、見られちゃいましたか。ははっ』
 などというセリフを期待したわけではないが、やはり不気味だった。
「さて、どうするんですか、今日は」
 と、矢口は言った。
 佐川は答えた。
「そ、そうだな。引き続き、プログラムのチェックと、アクセスの監視をしようか」
「なるほど。じゃあ、安原さんの、あれやりますか」
 矢口が言ったのは、安原が提案していた、幾つかのセキュリティ対策のことだ。
 アルゴリズムの案は、すでにグループウェアで共有されていた。
 そのとき、安原の声がした。
「もう、こっちで進めてるから、やんなくていいよ」
 安原は背中を向けたままでそう言った。
 矢口は舌打ちした。
「……もっと改良した方がいいっすよ、あのロジック。チェックパターンがザルだったから。俺やりますよ」
 また、安原が背中越しに言った。
「好き勝手なこと言ってんじゃねえよクソが。だったら、はじめからお前やっとけや」
 すると矢口は、独り言のようにつぶやいた。
「アンタがやるのはいいけど、余計なバグ増やさないでね」
 佐川はピリピリした空気に心臓が締め付けられる思いがした。
 安原はキーボードを両手で叩き、立ち上がった。
 佐川は安原の肩に触れ、まあまあ、となだめた。
 それから矢口に向き直った。
「矢口くん、ちょっと話できるか? ミーティングルーム行こう」
 しばらく黙っていた矢口は、ふいに立ち上がった。
「俺、体調悪いんで、帰ります」

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