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kyamanekoです。IT、思想、哲学、心理学などの記事を書いています。

個人情報漏洩させたらこうなった - vol. 03

実録! 個人情報漏洩させたらこうなった

イベント運営会社『DNプランニング』が運営する、チケット販売サイト『オールチケットオンライン(OCO)』は、約14万人の会員を抱えていた。
ある日、OCOはサイバーアタックを受け、約9万人の個人情報を流出させてしまった。
システム保守を行う『GRシステム』は、責任を問われ、対応に奔走することになった。
もし損害賠償請求をされたら、たちまち倒産するかも知れない。
苦情とサイバーアタックの嵐の中で、関係者たちは……

※本作はフィクションです

 

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vol. 03

 大島は由加里と佐川を呼んで、ミーティングルームへ入った。
 ミーティングルームはオフィスの片隅にあった。8畳程度の広さで、真ん中にテーブルがあった。壁には60インチのディスプレイがかかり、ノートPCに繋がっていた。
 大島はふと、新築したばかりの家のことや、家族のことを考えた。
 手放すことになるかも知れない。
 失ってしまうかも知れない。
 そんな途方もない恐怖がにじり寄ってきた。
 有限責任とはいえ、銀行からの借り入れについては、個人の担保を設定していた。
 未曾有の問題を前にして、そんな個人的なことを考える自分自身が安っぽくも感じた。
 大島は唇を舐めた。
 ひりひりと乾いていた。
 佐川に言った。
「おおむね、藤野から聞いてる。佐川、いまの状況は?」
 佐川は答えた。
「顧客への報告は、まだです。19時すぎに漏洩を発見してから、2時間が経ちしました。現状、問題のプログラムは、メンテナンス中にした状態で、裏側で修正中です。まだ機能が使えない状態なので、いずれにしても苦情がくるはずです。……あ、クレジットカード情報は、漏れていません。元々、外部の決済サービスとの連携をしているだけです。カード番号は保存していませんので。……しかし、住所氏名やメールアドレスが盗られたのは、やはりきついですね」
 佐川はひとしきりまくしたてて、ため息をついた。
 大島は深く頷いてから、由加里を見た。
「藤野はどう思う?」
「わたしが、ですか?」
「ああ。実のところ、俺はいま、冷静でいられる自信がないんだよ。いや、きみもそうだと思うけど。……今回のことは、営業担当であるきみの意見を、最大限に聞いた上で判断したい。言うまでもなく、俺が責任を取る前提で」
 わかりました、と藤野は続けた。
 すでに藤野の目元にくまが浮かんでいた。
「まず、速やかに顧客へ連絡すべきかと思います。ここまできたら、もう、逃げられないので。……わたしの方から、OCO運営担当の岩倉さんに電話してみます。緊急用に、携帯番号を聞いてあるので。それと、開発現場の対応はいまの方針で大丈夫だと思います。サイトを閉鎖すべきかどうかは、顧客次第になると思いますが……」
 大島は渋い表情をした。
 OCOの日間売上は200万円以上。それが数日続くだけでも賠償額は膨れ上がる。
 その他にも、9万人の会員に対する補償が必要になったら……金券500円に送料と人件費。総額で相当なものになる。
 藤野は言った。
「社長……。わたしの立場でこんなことをお聞きするのは、おかしいのかも知れないですが。なにか、損害保険みたいなものは……」
 大島は黙っていた。
 答えられなかった。
 保険契約を更新するときに軽いトラブルがあって、未締結のままだった。
「そのあたりは、任せておいてくれ。弁護士の桑部さんにも相談しておく。大丈夫だ」
 なんとか言い繕ったが、体が震えた。
「よし、とにかく手分けして、進めて行こう……。藤野は顧客連絡を。佐川は引き続き、現場の対処にあたってくれ」

 大島はミーティングルームを出て、スマートフォンを取り出した。
 桑部弁護士に電話をかけるために。
 手が震えていた。
 大島は自分の不甲斐なさにうんざりしていた。
 情けない。
 俺は終わりなのか?
 ダメヤローだ俺は、クソ。
 いや。
 いや、あいつらがいる……。
 由加里たちが。
 あいつら、まだ俺を信じてる。
 まだやれる……。
 会社を守らないと。
 ――電話がつながった。
「はい、桑部です。もしもし」
「私です、大島です。いきなりですが、最悪の事態です……」

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